Lesson2-2 発酵のしくみ

放っておいてもできてしまう発酵食品ですが、
実はその反応は、非常に複雑なプロセスを経ています。

その上、食品によっても発酵の過程は異なるので、
一概に「発酵」とはいっても、さまざまなパターンが存在します。

どの発酵も、基本的には2つの反応が進行しています。

多くの食品は多糖類(デンプンなど)やタンパク質といった
高分子を含んでいます。

高分子はたくさんの分子が結合してできているものなので、
まずは分子を分解させなければなりません。

そこでまずは

①天然高分子(多糖類やタンパク質)の鎖を分解する。

というプロセスを通ります。

そして、

②バラバラになった分子をさらに分解する。

という、2つの分解がおこなわれるのです。

醤油の発酵

それでは「醤油」を例に取り上げて、
どのように発酵反応が起きているのか見ていきましょう。

醤油の原料は「大豆」「小麦」「食塩」です。

まず、大豆と小麦を混ぜて、
「麹菌酵素」による分解がおこなわれます。

この分解によって、①大豆と小麦のタンパク質がアミノ酸に変わり、
小麦のデンプンが糖に変わります。(糖化)

後の工程で塩水を加えてできた「醪(もろみ)」は、
酵母の働きによってアルコール発酵し
複雑な香りを生み出すのです。

また②乳酸菌の働きにより酸を発生させ、
酸性の環境になるため雑菌の繁殖を抑えます。

さらに酵母の働きが落ち着くと、
もろみにはアルコールが産出されているため、
雑菌の繁殖を防ぐため、長時間の熟成もできるようになります。

醤油ができる発酵過程では、
これらの①②の分解が同時進行し、
醤油の複雑なおいしさを生み出しているのです。

醤油の他、日本酒や味噌の発酵プロセスも、
2つの分解が同時に行われています。

この発酵を、並行複発酵と言います。

醤油ができるまでの製造プロセス微生物の働き
大豆と小麦の混合物
   ↓←麹菌①
醤油麹
   ↓(食塩水)
もろみ
   ↓
発酵、熟成←乳酸菌、酵母②
   ↓
圧搾

ビールやウイスキーの発酵

一方で、ビールやウイスキーを醸造する時は、
2つの分解が同時におこなわれず、2段階でおこなわれます。

最初にデンプンがブドウ糖に分解されます。

その後、②酵母の働きによってブドウ糖がアルコール発酵します。

このように2段階の発酵プロセスを、単行複発酵と言います。

ちなみにワインの発酵については、
果汁はもともとブドウ糖が豊富なため、
①の分解(糖に変える)の必要がありません。

果汁をアルコール発酵させるだけです。

これを単発酵と言います。

エステル

発酵の副産物として重要なものに、「エステル」があります。

エステルとは、発酵によって生じた
アルコール類や、有機酸類が結合してできたものになります。

発酵によって生じるにもかかわらず、
このエステルはフルーティーで良い香りがする物質です。

例えば日本酒やワインなどは華やかな香りを楽しむことができますが、
それはエステルによるものです。

野菜の漬物から、ふんわりと香る独特な香りも、
エステルのおかげなのです。


このように発酵過程ではさまざまな化学反応が進んでおり、
もともとの原料とは異なる味や香りに変化していきます。

たとえ原料が同じであったとしても、
微生物の種類や温湿度などの環境によって、
できあがりの味や香りは異なってきます。

次のページでは、「発酵と腐敗」について解説します。