Lesson8-1 発酵の産業活用① 伝統産業

これまでのレッスンでは、
発酵食品について理解を深めてきました。

実は、発酵が利用されるのは、
食品だけではありません。

Lesson3-4で、枯草菌が生成する酵素は、
工業用の洗剤に使われることを学びましたね。

このように、産業や工業、医学の世界でも
発酵の技術は活用されています。

Lesson8では、食品以外のさまざまな活用方法について
学習していきましょう。

まずは、発酵が活用されている伝統産業について解説します。

和紙

一般的に、和紙はコウゾやミツマタといった樹木を原料につくられます。

コウゾやミツマタの樹皮を数ヶ月間水に浸けておき、発酵させます。

すると樹皮の内側から長い繊維を取り出せるので、
この繊維を水に溶かし、布網ですくい、乾かすと和紙になります。

めずらしいものでは、竹からつくった竹紙もあり、
これも竹から繊維を取り出すときに水に浸け、
発酵させます。

私たちの身の回りには紙がたくさんあります。

現在一般的に使われている大量生産された紙は、
「酸性紙」と言われ、数年で紙が酸化して変色し、
数十年もすればボロボロになってしまいます。

貴重な本や、長期保存するために使われる紙は「中性紙」と言い、
こちらは酸性紙の3〜4倍長持ちします。

しかし、日本の伝統的な和紙はその比にならないほど耐久性が高く、
数100年〜1000年も保存に耐えることができます。

1300年前の和紙に書かれた記録も残っており、
今も保存されているということです。

繊維

和紙と同じように、布をつくる際にも発酵が活用されています。

例えば、古くから使われ、
現代においても人々に愛されている麻布も、
製造の過程で発酵が活用されています。

麻から繊維を取り出すとき、
茎の表皮などの不要なものを取り除く必要があります。

そこで発酵を活用し、茎を水や雨水に浸けて発酵させ、
分解してから繊維だけを取り出すのです。

しかし、こうして採取できる繊維は非常に少なく、
麻の1つである「亜麻(あま)」からは、
15%前後のリネンしか取れないということです。

染色

植物の藍で染めた藍色は、
かつては「ジャパンブルー」とも呼ばれ、
その藍色で染まった藍染めは、日本を代表する伝統的な染色です。

藍には、「インジゴ」という青い色素のもとになる成分、
「インジカン」という物質があります。

これを発酵させ、空気中の酸素に触れさせると、
はじめて「インジゴ」になり青くなります。

しかし、インジゴは不溶性のため、
このままでは布を染めることはできません。

そこでインジゴを発酵させると、
水溶性に変化し、染色が可能となります。

こうして染色可能となった藍で、
手間ひまかけて藍染めにしていきます。

昔の人はどうしてこのようにしてまで、
藍染にこだわったのでしょうか?

それにはもちろん藍染の色合いの美しさもありますが、
別の理由もありました。

もともと藍は、漢方薬として中国から伝わった植物です。

解毒、解熱や防虫効果もあり、
さらに藍染された布は丈夫だったため、
野良着をはじめ、産着や蚊帳などにも使われたということです。

陶磁器の粘土

陶芸をされている人は経験があるかもしれませんが、
自分で採取して混ぜた土で粘土をつくる際、
それをすぐに使おうとすると、
粘土の伸びが悪くて成形しづらいです。

このような粘土でつくったとしても、
焼くとひびが入ったり割れたりしてしまうものが多いのです。

そのため、自分で採取した粘土の場合、
しばらく寝かせておきます。

土には多くの微生物が生息しているので、
寝かせることによって発酵が進みます。

すると微生物の代謝物によって粘土の粒子の間が埋まり、
粘土が滑らかで伸びやすくなるのです。

粘土の収縮率も減り、
ひび割れなどのトラブルも起きにくくなります。


伝統産業に活用される発酵について学習しました。

昔からこうした日本の産業にも発酵が用いられてきたことは、
意外と知らなかったことと思います。

発酵の技術を、昔の人々は経験から学んでいたのでしょう。

次のページでは、発酵のエネルギー活用について解説します。